「城下の人」(石光眞清著)に見る天守閣炎上
その時10歳であった、作家・石光眞清の心に、業火に燃え尽きていく熊本城の光景が焼きついた。後に小説「城下の人」の中で詳しく触れている。
「2月19日も、身を切るような寒い風が強く吹きすさんでいた。お午近くである。にわかに門前が騒がしくなった。『お城に火がついたぞ!』と叫ぶ声が聞こえてきた。私はびっくりした。父はもっと驚いて立ち上がった。・・・(中略)父の後に従いて、お城のよく見える長六橋に行った。本山から迎町にかけては、大変な騒ぎで、長六橋に来てみると、付近は人で埋まっていた。おお淡々と燃える天守閣!窓から凄まじい火焔を吹いて、強風が黒煙を竜巻のように、空高く巻き上げ、城下の街々へ火の粉を降らしている!強風にあおられて火勢はますますつのるばかりである。暫くすると天守閣全体が、一つの火の塊となって昇天するかのようである。」
士気を高める自焼か、薩軍の放火か、説は分かれるところだ。
国内最大の内戦でありながら、表立って語られることが多くない西南戦争の開始を告げる、なんとも奇怪な大事件である。